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知見・事例

伊藤忠商事におけるCSR推進活動(2/5)

2.伊藤忠商事のCSR

山口:なぜ伊藤忠商事様ではこのような形でCSRを進めようと考えられたのか、その経緯をお伺いします。構想を開始された2005年当時、CSR推進室にいらっしゃったのは中山さんですね。

中山氏:これは、CSR推進室が立ち上げられた時の室長が、商社においてどのようにCSRを推進するのが実効性があるかを考え、当時のCSR・コンプライアンス統括部長や部長代行と一緒に議論を重ねた結果だと聞いています。その結果、各営業部署でCSRアクションプランという計画を立ててPDCAでまわしていくのが一番実効性があるということになりました。

高井氏写真
高井氏

高井氏:最初は、各カンパニーに、事業説明や問題点についてのヒアリングという形で始まりました。私は当時、聞かれる側だったので覚えているんですが、その当時はCSRという概念がまだあやふやで、CSRという言葉を休憩時間に話した時、周囲にいた社員の半分は知らなかった(笑)。

中山氏:具体的には、今、グループマネジメントで使っているCSRチェックリストのようなものを使って、当時、各カンパニーから何人か、また、本社の職能部(管理部門)にもそれぞれ依頼をして、各部に記入してもらって分析する、という現状把握から始めました。

山口:社内反発を恐れて、最初のそのステップを踏み出せないでいる会社が多いように思います。CSRを進めるにあたって、CSRの範囲を管理部門だけに限定してしまう会社が多く、CSR担当者が本業部門に出かけていって、話を聞かせてくれ、ということ自体がなかなかできないようです。

中山氏:当時は、CSR・コンプライアンス統括部の中にCSR推進室があったので、先行して体制が構築されていたコンプライアンスの枠組みの中でCSRの話しを始めることができました。これが良かったようです。

コーポレートガバナンス・内部統制体制図
コーポレートガバナンス・内部統制体制図

高井氏:CSRを進めることができたもう一つの要因としては、CSRのような活動が好きな人をこの輪に入れたということがあげられると思います。僕がいた食料カンパニーには、私のほかにCSRのような活動に熱意のある方がもう一人いて、経営企画部長から僕とその方にCSRの話が来ました。その後、様子を見ていると、その方が何かやり始めて、何となく先に進むから僕もやらなければと思いました。

山口:CSR担当は経営企画部の人でなければならないということはなくて、熱意のある人を抜擢する方法もあるということですね。

中山氏:最終的には、カンパニーでは経営企画部長、総本社においては職能部長が責任者となって推進する、そしてCSRアクションプランをそれぞれの組織で立てる、ということが、2005年10月に社内決定されました。
そして、これを進めていくのはいいけれど、CSRが分からなかったら計画も何も立てられないということで、2005年11月にCSRの研修を1ヵ月に7回やったんです。アクシンョンプランの策定を実際にやってもらうことになるので、この研修には、各カンパニーから部門で必ず1人出してくださいということを経営企画部長にお願いしに行きました。

山口:人選は各カンパニーがするほうがいいですね。

中山氏写真
中山氏

中山氏:決裁については、初めにCSR・コンプライアンス委員会にかけた時に、その案が1回却下されたんですね。それでもう少し整理して且つ教育プログラムを加えてもう1回委員会にかけたらOKが出て、その後、HMC(Headguarters Management Committeの略)に行った時はスムーズに承認されたと聞いています。

山口:これまでの推進状況を拝見すると、貴社のCSRは社長決裁で進んでいるのだろう、と思う人が多いのではないかと思うのですが、実際にはいかがですか?

桜本氏:委員会での議論は本当に形だけではなく、実効性を追求するみたいなところがあるので、多分当時の議論もそういうことだろうと思います。教育が充分できていないのに上っ面でやっていてはだめでしょう、ということが委員会の中で議論されたんでしょうね。

山口:CSR事務局会議で「この辺が課題ですね」と議論されると、その後、正規のルートでちゃんと決裁がされて確実にフィードバックされてくるということですね。確かに、小林社長が鶴の一声で仰ってる感じではないという印象を受けます。

高井氏:当時、私はカンパニー側にいて、アクションプランをやると言われたときに、それほどの違和感はなかった。というのは経営計画を書いている面々に同じような流れでCSRアクションプラン策定の指示が来たから、「またこんなのが」とは思ったけれども、それ自体に特段の意識はなかったというのを現場にいて思いました。

山口:なぜ他社ではできず、御社ではできるのでしょうか。CSR推進とはそういうものなんだというふうに最初から話をすれば、案外各社「そうなのか」ということでできるかもしれないという気がします。多くの企業では、こんな無理難題を言ってはいけない、と自制しているのかもしれません。

高井氏:結局、総本社のCSR部隊と各現場とのコミュニケーション、つながり方なのかなという気がします。会社によっては総本社と現場は緊張関係にあって、営業現場のほうが上に立っている時もあり、そういう時には総本社から言っても聞いてもらえないですよね。だから一連の流れを見ていると、伊藤忠商事の場合はそこがややフラットなのかもしれません。

桜本氏:付け加えると、さっき委員会で1回却下されて研修のプログラムを入れて決裁されたという話がありましたが、「研修もやらないで、分かっていないことをやれと言ってもだめじゃないか」と言ったのは中山さんだったんですね。これは本当に英断だったと前任の室長がいつも言っていました。結構、ターニングポイントだったと。1ヵ月に7回の研修は、スタッフをすごく拘束しましたが、そこで力を使ったのがよかったんだと思います。

中山氏:CSRはこういうものです、というのを皆さんによく分かってもらうのが重要でした。

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