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知見・事例

伊藤忠商事におけるCSR推進活動(3/5)

3.アクションプラン実施の手法 - 意見交換会

山口:次はアクションプラン実施の具体的な仕組みですが、去年からアクションプランの策定プロセスに、第三者をお招きしての意見交換会を加えられましたね。

高井氏:私は、カンパニーの側にいて、最初はかなり抵抗しました。だって最初の候補者は、普段闘っているような方が多くて、どうやって笑顔でテーブルつくの、と(笑)。この場でやりたくないことをコミットさせられて、後でバツが悪くなったというのは嫌ですから。周りのみんなも、正直そういう意見でした。
しかし、今日に至ってみると、去年やった時からやってみてよかった、という話が出始めていましたから、思ったよりも成果があったようです。指摘されてごもっともという話は、ちゃんと受け止めていました。例えば、食料の意見交換会であなたたちがやっているのは社会の持続性ではなくて、会社の持続性を追求しているのだ、との指摘ももっともだと思いながら聞いていました。

山口:そうやってじわじわと浸透してくるのが嬉しいですね。

高井氏:ある意味ではこれは他社へのノウハウになったのかもしれない。最初はこっちが門の前であれだけ揉めたことからすれば、続く企業にとってはそれほど難しいことではないと。

桜本氏:最近、私たちは「本業におけるCSRをやっていきます」と言っているんですけれども、「本業がCSRです」というのは違いますという議論を専門家の皆さんが言われます。「本業そのものがCSRなのでこれでいいんです、だと進歩がない。これだけではダメなんだということが身に染みて分かったので、考えていかなければいけない」という発言が経営企画部長からあって、素敵と思いました(笑)。
一方、皆さんは商社が何でもできると思っていらっしゃるけれども、実は違うんです、ということをお伝えすることもすごく大事です。そういう場を持つことで、お越しいただく先生に逆に情報をお伝えできると、双方向のダイアログになっているなと思います。皆さんお忙しい中、折角お集りいただいているので、アクションプランが本業の羅列じゃなくなるようにしなければいけないと思います。

4.グループマネジメント

山口:次は、グループマネジメントについて伺います。本社でやっているCSR活動をグループ会社でもやることを決めて、それを着実に毎年十数社ずつ進めていくスタイルは他には例がないように思います。

桜本氏:これも実を言うと、コンプライアンスは全部連結ベースなのですでに格段に進んでいて、CSRよりももっと強制的にグループを巻き込んでやっているんですね。そのフレームがあったことがよかったのかもしれません。

高井氏:コンプライアンスという言葉に強制力があり、コンプライアンスのいろいろな要求をグループ各社へ発信していて、その同じ人間からCSRの話もくるから、受ける側はみんな強制力があると思っています。だからあまり区別をしていないんじゃないかな。

桜本氏:グループマネジメントに関しては、トップの役員クラスから「強化する」というベクトルが明確に出ているので。一番リスクがあるからマネジメントするということだと思います。

山口:他社において、守りのCSRと攻めのCSRを厳然と区別しています。守りの方はグループ企業でも強制的に進めています。一方、攻めの要素に関しては、アクションプランで進める、ということをグループ会社に言うところまでは行っていない会社がほとんどです。
御社は4年前に、本体のCSR推進を、本業のアクションプランの策定を基本に開始されたことが一番効いている感じがします。そういう流れができているので、グループマネジメントやサプライチェーン・マネジメントも各カンパニーに自然に受け止められているわけです。

5.グループマネジメント

山口:次にサプライチェーン・マネジメントについて伺います。御社では、密な取引のあるサプライヤーから、順次範囲を広げていく形でサプライチェーン・マネジメントは進めるべきというご判断が2年ほど前にあり、サプライヤー向けチェックリストを作り、調査を始められたのですね。

中山氏:サプライチェーン・マネジメントは重要なのですが、商社のサプライチェーンは本当に膨大なので、どの程度拡げるかが重要になると思います。多数のサプライヤーへの調査とは別に、綿花などいくつかの商材でサプライチェーンを上流に辿り、これをCSRレポートでステークホルダーにお伝えする企画に着手しましたが、本当にいい企画だと思っています。

桜本氏:商社の仕事自体が、サプライチェーンやバリューチェーンを構築する仕事です。例えばコットンでは、インドの畑、中国の縫製工場、卸し、小売など、上流・中流・下流の各ステージの全てのお客さまとうまくやっていかなければいけません。そう考えると、やはりサプライチェーン・マネジメントは大事だと思います。ただ、どこまで遡るかが課題で、社会・環境の配慮などCSR観点の施策を、やろうと思ってもコストをかけずにはできないんですよね。私たちは今、調査をしているだけで、何の影響力もないし、目に見える改善も得ていません。本当にサプライチェーン・マネジメントをやっています、と胸を張って言うためには、私たちがマネジメントした結果、何かが良くなったことを示さないといけないと思います。
多分そこに至るには何年もかかるんだろうと思います。CSR推進室は予算を持っていないので、これをやってもらうためには、営業の人たちにまず人を充ててもらわなければいけないのですが、それだけでコストがかかります。

サプライチェーン実態調査のチェックリストの一部
サプライチェーン実態調査のチェックリストの一部
桜本氏
桜本氏

桜本氏:現段階では、私たちは「まず実態を把握してください。コミュニケーションをとってください。現場に行って、自分で見てください。いつものデリバリーとコストの話だけではなくて労働関係がまともかどうかなど、そういう目で見てください」ということを営業の人たちに言っているにすぎないのです。
商社はもともと、最適なところから最適な工程で物を作って、できるだけ品質が良くて安い物を提供するのが仕事なのに、CSR面で配慮をしようとするとコストがかかってしまうわけです。この矛盾は苦しくて、営業も社会的にいい物であっても、高いと作っても売れないんですね。それをどうしようかと考えていくと、最終的には社会に対して「こうあるべきじゃないか」ということを私たちが啓発していかなければいけない。それって簡単にはできないですよね。

山口:去年のステークホルダーダイアログでは、出席者の方々が、「あちらを立てればこちらが立たない事情を消費者に知らせてくれ。知れば消費者は考えるようになる」とおっしゃっていました。

桜本氏:でもそれはすごく難しいと思います。

山口:この相反する課題は、政策が伴わなければ、企業セクターだけでやれることではないでしょう。今回、麻生首相が太陽電池とエコカーに関して政策誘導することにしました。そういう誘導策を併せて行うことによって、一般消費者が良いものを買うようになるのでしょうね。

桜本氏:繊維カンパニーに関して言えば、業界内での影響力があるので、リーダーシップをとる姿勢を期待したいと考えています。

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