知見・事例
メタルワン 社員手作りの企業理念(2/3)
2.企業理念制定のプロセス
山口:あの時、一回10人前後の社員にお集まりいただく議論を、計30回ほどやりましたでしょうか。私が「思う存分どうぞ!」と申し上げると、皆さま堰を切ったように(笑)。
金澤氏:最初の3回ぐらいワークショップをやってみて、どうまとまるのか、まとまらないのか、まとめようがないならその時に考えようと思ってやっていました(笑)。
このプロセスをどう進めようかとクレアンさんに相談した時の記憶を思い起こすと、どんな会社にしたいとか、自分は会社に何を求めるとか、逆に会社に何ができるかなどの意見をいろいろ言ってもらおうと考えていました。その意見のなかで会社として吸い上げていける部分があればと思いました。
実際のワークショップでは、意図せずまったく別々の方たちを集めたにもかかわらず、意外とまったく違う方向性の意見というものは少なかった。
山口:その点については、企画のときも、プロジェクトが始まってからも、金澤さんといつも話しあっていたような気がします。議論に当たって、落としどころを前面に出しては、多分話を小さくするだろうと。どんな会社にしたいかということを議論する中で、自然と理念に至る言葉が凝縮されていくのではないか、ということがあった気がします。
逆井氏:今思うと、理念策定プロジェクトは、企業理念を作るから意見を出せ、企業理念を作るけれどもどういう言葉がいいかとか、というようなことで始めたんじゃなかったと思います。自分の想いを言って、どんな会社にしたい、会社をどうしたいかと。課題も結構ありましたから、そういったものを乗り越えてこんな会社にしたいという議論をしていました。
原氏:それに新卒、あるいはキャリア採用というかたちで新しい人がどんどん入り始めた時期で、多分社員の感覚でもそういったいろいろな出身の人材を束ねていくのは企業理念しかないんじゃないか、という思いがあったから、ワークショップが非常に盛り上がったんじゃないのかなという気がします。
金澤氏:そうやって社員が議論していく中でキーワードがたくさん出てきました。経営側が何かを考えてこれがいいだろう、と言ったわけではまったくないわけです。
山口:ワークショップで出た皆さんの意見の1位は「誇りを持てる会社」、2位が「公平公正」、「風通しのよい会社」、3位が「信頼される会社」、4位は「業界におけるイニシアティブ」、次が「多様性」でした。
私はこれが理念に反映されているかなと思って今日改めて見てみましたけれども、すべて反映されているように思いますし、やはり経営層が最後に集約された段階でこれを相当ご覧になられた感じを持ちました。
金澤氏:参加した方々が、現状に対する不満の声もありましたけれども、それをバネにしてどうありたいかと考えた時に、社会への責任を果たす会社になりたい、人と協調したい、せっかく会社を作ったんだからその精神を残したいとか…。
みんな真摯に考えたし、自分たちがどうしたいという想いがそのまま入っているので、割と普遍性が高いのではないかという感じはしています。
山口:やはり御社の企業理念は、眺めるに値するなぁ、としみじみと思いまして…。格調が高いですね。
現在の自社の状況の延長線上で考える現状追認型の理念もありますが、そうではなくて相当高いところに目標を掲げて、そちらの方向に行くんだ、という意志が感じられる理念だと思います。
長井氏:メタルワンというものを作ったその当時の精神は何だったんだろうということを考えました。そして、企業理念を作る以上は、利益を上げるとか、儲けるというものではなくて、会社の存在理由というか、存在意義とは何だろうと。最終段階で考えたのは、儲けようとか価値を上げようとか、そういう言葉はなるべく使わないでおこうと。それを超えたものにしたいねということでした。
金澤氏:統合した当初は、いい会社にするぞ、という第一歩目が利益の出る会社だったんです。それは経営層も社員もそうだった。そういう想いで走ってきて、そこそこ利益も出せるようになり、業界でも認められつつあり、ふと考えたら俺たちの価値観ってほかに何かなかったのかということがあって…。
今後はもうちょっと余裕を持って次の世代にこういうことをしたいんだ、と言ったときにどんな会社がいいんでしょうか、ということを聞いたら皆の口からポロポロと出てきた。
長井氏:言葉を考えるときに、価値という言葉も出てきました。でもあえてそれは言わないでおこうと。社会的責任というのもあったけれども、責任を果たすのは当たり前だし、今それを果たしていないみたいじゃないかと。そうではなくて、目線をもうちょっと高いところに置いて考えようと。最後には、経営方針とか経営戦略とか経営計画のようなものは全部やめようと考えました。
山口:そこまで考えられて、1つひとつの言葉を吟味されたわけですね。目指すものだけを抽出して、非常にシンプルにそれを示している、そんな感じがいたします。
逆井氏:はじめは長い文章を作られていたんですよね。それを最終的に、一項目の文字数もある程度同じになるように考えられたと聞いています。
長井氏:当時の社長が3名の役員を理念制定諮問メンバーに指名して、社員の想いが込められたキーワードを基に、そこで練り上げていったんですが、すごく苦労したんです(笑)。
金澤氏:企業理念は何かがあったときの拠り所になる、ものさしとか指針になるものですね。だからそれに不適当な言葉は除外している。何か問題が発生したとか、右に行くか左に行くかを決めるときに、これを基準にして決めましょうという、という基準になりえるものということで、皆さん相当に考えられたと思いますよ。
長井氏:企業理念というのは今を否定して将来へ向かうというようなものではなくて、もっと高いところを目指すものであるべきだろうと、私は感じたんです。