知見・事例
旭化成 社会・環境・経済全側面での製品評価の試み(1/2)
CSR戦略を支える
「社会・環境・経済全側面での製品評価指標」
化学企業各社の事業転換が加速する中、旭化成の蛭田史郎社長が、環境、社会を正面に捉えた事業戦略を示した。本稿は、旭化成の新事業戦略とそれを支える製品評価指標について、外部の眼による解釈と分析を行ったものである。
出典 | 月刊「地球環境」(日本工業新聞新社)2009年10月号掲載記事 |
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著作 | 株式会社クレアン コンサルタント 山口 智彦 |
1.新たな社会の要請に応える旭化成の事業戦略
世界は経済危機の中にある。現在、世界は困難に堪え、この危機を乗り越えようと懸命だが、一方で大局観を持つ人々は今回の危機を必然であったと受け止めている。近年、利益追求が先鋭化し、それにともなって大量生産、大量消費が加速し、どうにもならないところまで来て両者が抱き合って破綻したのが2008年であった、という見方である。
この破綻を契機として、生活者は消費行動や生活様式を見直し始めた。政治や行政は、金融、経済の暴走を防ぐための社会制度や規制を模索※している。企業もまた、次の社会への転換に資するビジネス開発に向け、急速に舵を切り始めた。このような動きの中、日本を代表する総合化学企業である旭化成が、次の社会に向けた事業戦略を示した。
本稿では、旭化成の事業戦略の概要を紹介し、そののち、本戦略を支える、「社会・環境・経済全側面での製品評価指標」の試みについて、その概要と着目すべき点について述べたい。
旭化成グループCSRレポート2009において、蛭田社長は、現在の地球と人間社会についての認識を次のように示している。
- 国連「世界的な金融・経済危機とその開発への影響に関する会議」2009年6月24~26日開催など(http://www.un.org/ga/econcrisissummit/edis.html)
「産業革命以降、大量生産・消費は、必然的に資源とエネルギーを浪費して、莫大な廃棄物を生み出し、生活環境に対する課題、特に地球温暖化問題という重大な課題として跳ね返ってきました。そのような中で、人々が物質とは離れて価値を見いだそうとしている時代に、我々は企業活動を行っているのだと認識しています」
この認識を基礎として、蛭田社長は自社の進路を次のように示している。
「我々は、企業活動の重点を3つの分野に移しています。ひとつは(生産活動において)製造プロセスで発生する二酸化炭素(CO2)、あるいは廃棄物をミニマムにすること。二つ目は、生活の中でCO2を削減するようなプロダクトに重点を置いて製品開発をすること。三つ目は、物質的な満足とは別の社会的な視点、人々の生命を守る、医療関連を強化することです」
蛭田社長の発言の一点目は、すべてのメーカーの必須要件である。二点目のコミットメントは重要である。旭化成は産業素材から一般消費財まで多様な製品を提供しているが、今後は、使用時においてCO2を削減する製品やサービスに重点を置くと示している。三点目は、社会性の観点で重点事業を定めるという表明であり、多様な事業を擁する企業として大きな決断であると思われる。
上記のコミットメントに加え、自社事業の原材料について、蛭田社長は次のように述べている。「化学事業の原材料を植物由来にしていくことが必要だと思います。また、その実現のためには、再生可能なエネルギーを普及させて、植物資源と自然エネルギーをセットにする必要があると思います」
短期的には石油資源を化学原料として大事に使いつつ、長期的には植物資源を利用する方向に転換するという理念をトップが持ち、それを内外に示すことは、今後、社員の製品開発姿勢に大きな違いを生むことになるのではないか。
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