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知見・事例

シスメックス 迷いなく理念を実践する企業(4/4)

山口:では3つめのテーマですが、
社会のために尽くすという方向性と事業の方向性が合致した貴社において、CSR部門としてどういった面に注力されているか、どのあたりに苦労されているか、また、今後の課題は何か、などをお聞かせください。

井口氏:これまでお話しさせていただいたように、シスメックスは、企業理念を掲げ、それを日々の仕事によって実現しようとする会社です。ヘルスケアの進化をデザインする、という使命を受け、自分の仕事を考え、社員一丸となって理念を具体的に実践していると言えばかっこいいですが、実際はそれほど簡単ではありません。当社は、研究開発型のメーカーにありがちな、商品を地道に開発していれば、いつか理解してくれる人は現れる、という職人気質の気持ちが以前まで社員の中にあったように感じます。ステークホルダーの皆様に自らを理解してもらおうという姿勢に少し欠けていたように思います。私もそうでしたから(笑)。

山口:一人ひとりの中にも葛藤があり、昔からの社員だけでなく最近入社した社員にもそういう葛藤や悩みはあるだろうと思います。

井口氏:CSR・環境推進室の仕事のひとつは、社会への発信、情報開示です。社外の人々に対し、CSRレポートなどを通じて当社をより深く理解いただくことであり、これは粛々と行なっていますが、もうひとつはCSRの社員へ浸透です。社員にとって目の前の研究開発や販売などの仕事も大切ですが、その向こうには、患者さんやその家族、他にも多くのステークホルダーがいらっしゃることをいつも強く意識してもらうことが私たちの大事な仕事だと考えています。

山口:CSR・環境推進室というより、シスメックスウェイ推進室と名づけたほうが部署の目的を表すかも知れませんね(笑)。

井口氏:そうですね(笑)。

山口:そのように考えると、CSRから少し距離のある本業を持った企業がCSRの観点を何とかして組み込もうという、いわゆる定型的なCSRマネジメントは要らないかもしれませんね。

井口氏:そうです。ですから、この五年間、他社と横並びのCSRマネジメントはやらないようにしてきました。CSRと事業のベクトルが合致している企業なので、「CSR活動」をわざわざ探して作る必要はないと考えてきました。

山口:シスメックスのCSRの要諦は「これが一番良いと思って今はこのように仕事しているけれど、ヘルスケアに貢献する他の方法は無いだろうか」と社員一人ひとりが自らに問う、そういう気風を作ることかも知れませんね。そしてそれはQV活動などで日々前進している印象を受けました。

井口氏:それを伺って私たちは間違っていなかったと安堵しました(笑)。社員一人ひとりが進化することでシスメックスが進化し、そしてヘルスケアが進化する、そう信じています。

山口:理念を実行する会社になろうと目指しながらも変わることができない会社が多い中、シスメックスは日本には大変珍しい理念実践企業だと思いました。
この迷いの無い切れ味がもっと世の中に知られれば良いと思いました。
本日はお話を本音でお聞かせくださいましてありがとうございます。

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