知見・事例
住友金属鉱山のコミュニケーションを軸としたCSRの推進(2/2)
社外とのコミュニケーションの状況
安藤:社外とのコミュニケーションに問題意識を持たれ本格化されたCSR活動ですが、海外進出先における現地地域社会とのコミュニケーションは実際にはどのように進められたのですか。
平井氏:まずは当社事業の開始について地元に暮らす人々から同意を得るため、説明会を複数回開き、当社の事業における姿勢を説明するとともにご意見も承りました。更に、多くの部族の代表の方々、教会関係者、地元NGOと面談を重ね、事業への理解を深めて頂くための努力を続けました。また、2009年ごろからは国際NGOとの対話もスタートしました。
安藤:国際NGOとの対話は最初からスムーズに行きましたか。
平井氏:当社は、反社会的勢力を除きあらゆる対話の門戸は閉じず、ということを基本姿勢としていますが、これまでそうした経験がほとんどなく何しろ慣れていませんでしたから、NGOとどのようにつきあえばよいのか最初はとまどいもありました。ですので、社内で「NGOとは何か」について勉強会を開いたり、ステークホルダー・ダイアログを開催したりするなどNGOに対する理解を深める活動も同時に進めましたね。今ではNGOという存在に対する理解が進み、NGOとの対話なくしては自分たちの事業の推進はできない、という認識もかなり定着してきたと思います。また、実際の現場では、対話の経験を積み重ねることで少しずつNGOとの連携が進み始めています。
安藤:具体的にはどのようなことで連携を進められているのですか。
平井氏:ソロモン諸島での事例ですが、ここではThe Nature Conservancy※1という国際NGOと連携して、地域住民とのコミュニケーション、環境調査などに対してアドバイスをもらいながら現地での活動を進めています。これまでと違ったのは、こちらから「一緒にやりましょう」とオファーを出したことです。ソロモン諸島は先進国に比べて法制度に未熟な部分があり、このプロジェクトを成功させるためには鉱山開発の前段階からNGOと連携することが不可欠と考えていました。一緒に組む相手を探し、相手の能力、仕事のスタイル、人物などを確認した上で、契約を結びました。こうしてソロモン諸島のケースはNGOと契約を結んでプロジェクトを進めるという、当社では初めてのケースとなりました。
安藤:CSR推進の取り組みで目指してきた大きな目標のひとつが達成された感じですね。
平井氏:いいえ、まだまだだと考えています。確かに手本のひとつとなるケースであるとは思いますが、まだプロジェクトは進行中ですし、このようなケースを増やすことができるかどうかは、NGOとの接点やチャネルを今後どれだけつくることができるのかにかかっていると思っています。こうした実績を積み重ねながら、また同時に社内の理解も進めながら、こうした事例を増やしていかなければいけないと思っています。そしてそのためにも、ソロモンでの経験を他のケースにも活かすことができるよう、真摯に学びながら全社でノウハウを共有化していきたいと考えているところです。
- ※11951年に自然保護を目的に設立された世界的NGO。生物生息地や稀少野生生物、生態系の保全などの活動を行い、世界で100万人以上の会員を擁する。
進化するCSR報告書
安藤:社外とコミュニケーションという意味で情報開示は欠かせない要素だと思いますが、ここ3年間連続して表彰を受けるなど御社CSR報告書への社外からの評価が高まっているようですね。
平井氏:まず、報告書を評価いただいていることは本当にありがたいことと感じています。当社は、金属鉱業の国際的な業界団体であるICMM※2に加盟していることから、CSR報告書の国際的なガイドラインであるGRIガイドラインに則ったCSR報告書を作成し、アプリケーションレベル※3でA+をとらなければいけないという命題がありました。2010年までにその基準を達成しなければいけない約束だったのですが、当初は環境を含めた非財務情報の収集にとても苦労をしました。CSR報告書を初めて発行した2008年から3年かかってようやく情報収集の体制と仕組みが整ったという感じです。
安藤:実際のところ情報収集はどのように進められたのですか。
平井氏:まずはGRIガイドラインに基づいて集めなければいけないデータを特定し、関係部署に対して協力を求めました。環境のデータについては、PRTRや省エネ等の規制の下、情報収集するルートがあったのでそこにプラスしていった感じです。社会性のデータについては、すでに存在していそうなデータについては連結会計のソフトにこちらもプラスしていったのですが、多くは新しいものだったためエクセルなどで質問表を作成して回答してもらうというアナログなやり方を取らざるを得ませんでした。でも先ほどもお話ししたとおり、2010年までに基準を達成しなければいけないという命題があったため、トップからの働きかけもあって、社内的にも意思統一ができ、比較的早い段階できちんと軌道に乗せることができたのではないかと思っています。
安藤:そうして苦労して進化させてきた報告書ですが、今後はどのように活用していきたいですか。
平井氏:社員へのCSR意識の浸透に活用したいというのが第一ですね。そのため当初から全社員にCSR報告書を配布しています。全社員に読んでもらうためには進出地域に対応してCSR報告書の多言語化も進めなくてはなりません。現在、日本語・英語・スペイン語の報告書を発行していますが更に増やす必要があると思います。報告書のアンケート結果からは毎年社員のCSRへの理解が着実に進んできているということが感じられてうれしい限りです。例えば以前は、「CSRって何」というような質問も多く見られたのですが、今では質問の内容がより具体的なものになってきていたり、自分のことばでCSRを語れる人も増えてきたりしています。こうした情報開示を進める中で、先日「なでしこ銘柄」に選ばれる、といううれしいニュースもありました。社外から評価を受けていることをもっと社内にもきちんと伝えながら、今後は実際の取り組みのパフォーマンスを上げていくことにもつなげられるよう、もっと活用を進めていければと考えています。
- ※2International Council on Mining and Metals:国際金属・鉱業評議会。金属・鉱業界における優先度の高い課題や新たな課題に取り組むCEO主導型の業界団体。
- ※3アプリケーションレベル:報告書がGRIガイドラインに準拠していることを示すための仕組み。A~Cの3つのレベルがあり、外部保証を取り入れた場合に+をつけることが可能となる。
今後の目指すべきCSR活動
安藤:最後に、今後、住友金属鉱山のCSR活動はどこを目指そうとされているのかお聞かせいただけますか。
平井氏:CSR活動の推進では、ステークホルダーとのコミュニケーションが重要ですが、そうしたステークホルダーからの要請は時代時代で変化をしていくものだと考えています。ですから、社外から求められていること、世間の常識について把握するために、これまで以上に外部とのコミュニケーションに真剣に取り組んでいかなければいけないと思っています。それと同時に、やはり社内への意識浸透にも取り組んでいきたいと思っています。CSR活動を実際に担うのは社員一人ひとりですから。CSR報告書についてもここで満足することなく、社外からもそして社員からもより関心をもってもらえるよう工夫を重ねていきたいです。そして重点6分野ごとに描いた2020年のあるべき姿について、目標必達を目指して活動を加速させていきたいと考えています。
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