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報告とコミュニケーション

統合報告が求められる背景

統合報告が求められる背景として、企業の持続的成長や中長期的な価値創造に対しESG(環境・社会・ガバナンス)の要因が重要な影響を及ぼすという認識の広がりが挙げられます。

このことを示す動きとして、以下の例をご紹介しておきます。

(1)環境問題・社会問題に対する経営者の関心の高まり

世界経済フォーラムによる「グローバルリスク報告書2015」によると、近年、水危機、気候変動問題、感染症疾患の急激かつ広範囲にわたる蔓延などが、世界全体に影響を及ぼすリスクとして重視されてきています。こうした状況において、企業はさまざまな社会問題・環境問題を、経営におけるリスクであると同時にチャンスとしても捉え、成長戦略の中に組み込むようになってきています。そうした戦略を発信するツールとして統合報告書を位置づけている企業もあります。

(2)機関投資家によるESGを考慮に入れた資産運用

機関投資家がESG問題を投資の意思決定に組み込むことで投資パフォーマンスの向上を図るイニシアチブ「国連責任投資原則」(PRI: Principles of Responsible Investment)への署名機関数は、2015年4月時点で1380機関、運用資産は59兆ドルに上っています。また、経済産業省が2014年に国内機関投資家を対象に行った調査によると、回答のあった投資家のうち8割以上がESG情報を重視するとの結果となっています。投資家の関心は、ESGが長期的な企業価値向上にどのように影響しているかという点にあり、統合報告書ではこの点をいかに伝えていくかが重要になります。

(3)コーポレート・ガバナンスに関する政策的な動向

2014年2月に策定された「日本版スチュワードシップ・コード」では、機関投資家に投資先企業との対話の前提としてESG情報の把握が求められています。また、2015年3月発行の「日本版コーポレートガバナンス・コード」では、企業に非財務情報の積極的な開示を求めています。いずれも、資本市場における短期主義的な投資行動の過度な広がりを防ぎ、建設的な対話を通じて中長期の投資を促すことで、企業、投資家、ひいては経済全体の発展につなげることを狙いとしています。統合報告書はそのための対話のツールとして政策的観点からも重視されています。

このように、企業、投資家、政策立案者のそれぞれの視点から重要性が高まってきているESG情報ですが、従来、そうした情報はCSR報告書で開示されることが一般的でした。CSR報告書は、企業が幅広いステークホルダーに対して説明責任を果たすツールとして不可欠のものですが、投資家の視点からは、環境側面や社会側面については情報量が多すぎてそのままでは投資判断に使いにくいという声もありました。そこでCSR報告書とは別に、株主・投資家を主な対象に、企業の価値創造と関連が深い重要なESG情報に絞り、経営ビジョンや戦略と結びつけた(『統合』した)形で表明するツールとして、統合報告書が求められてきているのです。

統合報告が求められる背景